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 何時の御代のことでございましたか、伏儀の名で知られる王がおられました。  王は若いながらも見識豊か、下々まで含む臣下の意見を良く聞き、軍を率いては負け知らずと、この帝国をますます繁栄させる御方と皆の期待を一心に集めて おられました。

 王にただ一つ欠点があるとすれば、未だ妻帯せぬ事でございました。
 家臣一同、あちらの王女はいかがか、こちらの娘はいかがかと勧めますが、首を縦にふりません。
 ならばせめて妾をというのですが、揃えられた美しい娘のどれをも気に入らない様子。
 「御子をなすのは、王の義務ですぞ」  
 そのような声にも耳を貸しません。
 最近では、王は不能なのではないか、いや男色にふけっているなど、王の権威を揺るがしかねない噂まで公然と囁かれつつあり、帝国内には後継者を巡る不穏な気配まで漂う事態となっておりました。

 そんな中、王宮内へ一人の商人がやって参りました。 この者が申すには、
 「私は、愛らしい美人奴隷をつれて参っております。その美しさと来たら、陛下が世界中をお探しになってもまたとはいるまい、と申し上げても決してお怒りにはなりますまい。それほどの美しさでございます。この女奴隷ならば、陛下のお気に必ず召すはずでございます」
 このような売り込みは、珍しい事ではございませんでしたが、その商人の持ってきた他の品々も見事な物でございましたので、その女奴隷を陛下に会わせる段取りが早速組まれたのでございます。
 女奴隷を見るやいなや、王は好きで好きでたまらなくなってしまいました。  その白い肌、異国の血を思わせる珍しい水色の髪。 なにより、その淡い紫の瞳が、王を臆することなく見上げています。 美しいその顔は、笑みを浮かべたら、さぞや素敵な事であろうと思いましたが、何の表情も浮かべることなく、王の御前に立っています。
 その無表情がまた、儚い繊細な美しさをもたらし、王を虜にします。  
 「この者をわしの后にする」  
 こう宣言し、多額の金子を商人に払うと共に、早速婚姻の準備にかかられました。
 驚いたのは、王国の人々です。  異国の商人が連れてきた、素性の知れない娘を王妃として迎え入れるというのですから。  しかし、王は断固とした態度で、ご自身のご結婚を進められました。  娘が王宮に来て数日で、盛大な婚姻の儀が執り行われ、娘は王妃となったのでございました。  

 婚儀の夜、王宮の奥深くで、お二人は初夜を迎えておられました。
 「我が后よ。ようやく二人きりになれたな。そろそろそなたの声を聞かせてはもらえぬかの」
 商人に連れられて来てから、未だ王妃は一言も発してはおられません。緊張のためか、中には、育ちの悪さを隠すためだと、言う声もありましたが、王にはそうは思えません。

 初めてあったとき、王を見上げたその目に確かな知性を感じたからです。  ですが、それ以降、この初夜の時を迎えるまで、王妃と目線が合うことはありませんでした。 王妃の視線はいずこか遠くをさまよっており、婚儀の最中も場を乱すことこそありませんでしたが、心はどこか遠くにあるようでした。
 この国の婚儀は、儀礼に満ちたものではございましたが、当人たちはただ立っていれば良いという形でしたので、それでもつつがなく婚礼が執り行われたのでございます。
 もちろん、娘に結婚の異議を唱える機会など与えられようはずもありません。  偉大な王の正式な妻となるのです。異があるはずがない、というのがこの国の考え方でございました。 良くも悪くも娘に声を出す必要など無かったのでございます

 二人きりの初夜の床を前に、王は今や妃となった娘にやさしく声をかけられますが、娘はまるで聞こえていないようです。
 侍女たちに連れてこられて、寝台に腰掛けさせられたままの姿勢を崩すことなく、王の方を見ようともしません。
 「后よ」
 王妃の手に手を重ねながら、話しかけますが、全く反応がありません。
 緊張しているのであろうか。そう思いながら、口づけますが、これにも無反応です。
 「いたしかたない。そなたと言葉を睦みかわしてからと思うたが・・・・」
 そういいながら、王妃の夜着の腰紐に手をかけると、その肌をあらわにします。  その白い肌の美しさは、薄暗い寝室でも明るさを感じるほどでした。その胸のふくらみは、控えめではございましたが、大層お美しい形で、その頂の飾りは愛らしく、王の目を釘付けに致しました。
 その胸を、おずおずと撫でられた王は、その吸い付くような感触にご自分の前が熱くなってくるのを感じました。
 今まで、感じたことの無い情熱でございました。 王が女に手出しをなさらぬのを案じた王宮内の男どもが、いろいろと語って聞かせた事はこれであったかと、今ようやく得心なさいました。
 そのご自身の熱の凶暴さに身を任せたい誘惑に駆られましたが、この男どもが言っていた女の喜ばせ方を思い出し、じっとこらえます。
 特に処女はきちんと手順を踏まねばならぬ、と。
 王は、王妃が処女であると信じておられました。
 よしんば処女でなくてもかまわないとも思っておられました。このような美しい娘が奴隷の境遇に在って、その身を守ることの難しさは王もご存じでしたから。
 しかし、自分の王妃となって初めての夜、彼女を処女として扱うと心に決めておられました。  
 一方、商人は娘の純血を請け合いました。
 しかし、王宮内の人々は納得しません。処女かどうかきちんと調べるように王に進言しました。
 「王統に関わる大事である」  
 王は、このご意見を退けました。
 曰く 「自分の王妃をそのような無礼な目には遭わせられぬ。彼女が乙女であるかどうかはわし自身が確かめる」

 王は、王妃の胸を覆うように撫で、そのまだ幼いとさえいえる胸の頂のふくらみを手のひらで堪能された後、片方の手は王妃の胸に当てられたまま、もう一方の手で王妃の背中を支えながら、王妃をゆっくりと寝台に横たえられました。
 まだ王妃の秘所は、夜着で覆われていましたが、それをゆっくり除けると、淡い茂みに隠された山脈の登り口が目に入って参りました。  こうなってもまだ、王妃は一言も声を発しません。それどころか、目は天井のどこかを見つめ、腕は寝台に投げ出されたまま。
 王は、そのご様子を痛ましげに見つめられましたが、
 「王妃よ。名も知らぬ娘よ。そなたしかわしの妻はおらぬ。どうかわしを受け入れてくれ」
 そう仰ると、王妃の膝の裏から手を入れ、その深く閉ざされた秘密の森をあらわになさったのでございます。  王妃の秘所は、息を呑む美しさでございました。  その女貝は柔らかい桃色で、未だ堅く口を閉ざしておられます。またその先端の小さな真珠はしっかりとくるまれておられました。  王は、実の所童貞で、女の秘所は絵で見るばかりでしたが、その美化されたどの秘所よりも王妃のそれを美しいと感じました。

 その堅く閉ざされた貝の入り口に手をやり、その入り口を指先でたどります。その瞬間、王妃が息を飲むような音が聞こえ、驚いて王妃の顔を見やりますが、 王妃の視線は相変わらず、宙をさまよったままです。

 重ねて、入り口をたどりましたが、王妃の表情に変化はありません。
 気を取り直して、王妃の秘所にもう一度目をやります。教わったとおり、自分を受け入れてもらえるように、王妃の秘所をほぐそうとしますが、その堅く閉ざされた入り口は王の指一本の進入すら拒みます。
 王は逞しい武人でもございましたので、力ずくで押しいえればその門を壊して入ることもできたでしょうが、同時にお優しく在られる王はそのような荒々しい 戦法はとられませんでした。すぐに戦略を立て直し、王妃の真珠の攻略に切り替えました。  そこは、博士たちが絵図を見ながら、ここは男の槍と同じでございます。女子(おなご)はここでも感じますと、指し示した場所で ございました

 しかし、王妃の真珠は、隠されていて、王はこのあたりかとおもうところを優しく撫でてみます。あるところを撫でたとき、王妃の息づかいがまた聞こえました。空耳ではありません。王妃はお声を返さず、視線も返さずですが、感じていないわけではないのです。
 それに勇気を得て、王は事を進められていきます。 王妃が反応したあたりを柔らかく揉みながら、探っていきます。
 ですが、王妃のそこは繊細で、それに比べると剣で鍛えられた自分の手はどうにも無骨な物にしか見えません。
 王妃を傷つけたくない一心で、王は王妃のそこに唇と寄せると舌で優しく探られ始めました。王妃が体を捻って反応します。
 確かに気のせいではないのです。
 それに喜びを深めながら、王は舌を使って、王妃のお隠しになっておられる真珠を世に出そうとなっておられました。王妃の切なげな吐息が漏れてくる頃に は、王妃の秘所からも、香しい夜露がこぼれてきました。
 その香りに心惹かれて、王はそちらへ唇をお移しになり、王妃の夜露を舌でお取りになります。そうしてそれが涌き出す泉の奥へと舌を差し入れられると、先 ほど指一本受け付けなかった門が柔らかく開かれ、王の進入を受け入れます。
 舌を角度を変えながら差し入れ、その入り口を解いていきます。それと同時に王妃の真珠を手で磨くことも忘れません。
 王妃の吐息に励まされながら、どうにか指が二本ほど入るようになったところで、いよいよご自身を進め入れられました。  王妃は、何も意味ある声は出されませんでしたが、口は堅く結ばれ、目は閉じられ、その眉が寄せられます。苦痛に耐えているのは明らかでした。

 王はそのご様子に、心を痛められましたが、そこは男の性、もはや引き返せません。
 大分馴らしたつもりでも、まだまだ狭いそこに驚きながら、指では届かなかった奥の聖域までその身を進めます。
 最奥まで到達なさった時には、もはや王妃を気遣う余裕はなく、その本能のままに激しく動き始めました。
 一際強く、お突きになった時、王妃の内側が王を強く包みこみ、その心地よさに熱をはき出されながら、王は王妃の上に倒れ込まれました。
 まだ、荒く息をされながら、ご自身を引き抜かれるとそこに赤い物がついているのに気づかれました。力なく横たわる王妃の秘所は破瓜の血で汚れていて、白い肌にその赤さは、目に突き刺さりそうです。

 処女を苦痛の内に奪われた王妃を痛ましく思うと同時に、自分が初めての男だという誇らしさ、満足感を覚え、何が何でもこの娘を守るという決心をしながら、王はそのまま心地よい眠りに落ちていかれました。  





 御成婚後も、王妃は一言もお話にはならず、すっかり唖の王妃として王宮では扱われていました。
 それでも王の訪れは、一晩たりとも空かず、—————もちろん御政務で王宮を離れる時は別でしたが、——————王のご寵愛を一身に受ける身として丁 重に扱われていました。
 なにより、王ご自身が、王妃の身の回りに気を配っており、少しでも王妃にふさわしくない扱いをされているのをお見かけになると烈火の如くお怒りになり、 改めさせるのです。少年の頃から、落ち着きを持ち、感情をあらわになさる事のない王のこの剣幕に一同大層驚きました。そして、一国の王妃としての待遇 に、(たとえ唖ではあっても)、遺漏がないよう気を配ることとなりました。    

 王ご自身は、王妃は話せると思っていました。普通、話せない者は耳も聞こえぬものですが、王妃は聞こえていらっしゃるのです。
 ある時、王妃の背後で、わざといきなり花瓶を落としたとき、王妃の背中が揺れるのを見て確信しました。
 また、王妃のマナーは完璧で、食事などの際は、これ以上丁寧に美しく食事をなされる者を王は見たことがありませんでした。宮廷一の優雅を誇った亡き自分の母ですら、この足下にも及ばないと思いました。

 確かな教育を受けた証が、その所作のあちこちに見られるのです。
 たとえ、声が出せずとも、その意思を伝える術を持っているはずなのです。

 でも、王妃は沈黙を続けておられました。  王はいつか王妃の心が開かれて、話しかけてくれる日が来るだろうと信じて、待っておられました。  毎晩通う寝所では、王妃の心をほぐすべく、やさしく語りかけなさると同時に、政務における悩みをお話になったりなさっておいででした。

「その方がしゃべれぬと思うから、このような表向きの話をするのではないぞ。もしそなたの口が聞けたら、どう思うておるか聞かせて欲しいところだ。わしのこの悩ましい気持ちをわかってくれる様に感じておるのだが、気のせいかのう」


 一方、王のお体の熱は高まるばかりで、その激情は王妃に一心に向けられていました。心が開かれるのを優しく待ちながら、その体を性急に拓いていく。その 矛盾に王ご自身苦い笑いが漏れましたが、どうにもなりません。

 毎夜、毎夜、王の愛撫を施された王妃の体は、もはや、寝所で苦痛ではなく喜びを覚える様になっていました。
 相変わらず声は出されず、出されても抑えられた吐息のみ。その手は、王のお体に回されることは無く、敷布を掴んでいるばかりでしたが、その吐息の調子や、表情からは、もはや苦痛の色は見えません。
 敷布を掴む手も、快楽を押し込めるために握りしめているように思えます。

 王はお優しく王妃に話しかけられ、寝所の事も情熱を持ちつつお優しくあられましたが、時には荒れることもございました。  ある時などは、酷く酔って寝所にやっていらっしゃると、王妃の夜着を引き裂かれ、何の施しも与えずにいきなり貫かれました。  「どうした? 声をだせ、出さぬか、なぜしゃべらぬ。わしは、わしは・・・そなたの夫ぞ。わかっておるのか」

 苦痛に耐える王妃を見下ろすと、いきなり王妃の体を裏返します。その獣の姿勢で、王妃のまだ何も受け入れたことのない後陰をいきなり、ご自身の槍で貫かれました。  王妃は、敷布を堅く握りしめ、頭を寝台につけ苦痛にお耐えになろうとなさいますが、王は許しません。  

 「どうじゃ、これでも声を出さぬか?  獣でもこうやれば声を出すであろう。えい、どうなのじゃ。」
 そのまま、激しく抜き差しをなさいます。
 「恨み言でもいい。何か申してみよ」  
王妃が気を失われてもおやめにならず、再度、気を失われたままの王妃の女陰を犯し、それから再び後陰を深く犯されてから、ようやく眠りに落ちていかれました。

 朝、お目覚めになられて王は、すっかり酔いの覚めた頭で、真っ赤に染まった寝台と血の気を失った王妃をご覧になられてあわてられました。
 医師を呼ぶと同時に、王妃が目を覚ますまで、側で手を握り、許しを請いました。  
 幸い王妃の回復は早く、医師からは 「あまり無茶をなさいますな」 と、釘を刺されたものの、閨の許可は意外なほど早く降りたのでございました。

 そんな目にあっても、王を責めるでもなく沈黙を守る王妃でありましたが、王の愛情は増すばかりでございました。

 その紫の瞳に自分を映し出して欲しいとそればかりを願っておられました。    そうこうするうちに、お二人がご結婚されてから、一年余りがたちました。  王の王妃の元への訪れは、相変わらず毎夜です。
 さすがに、毎日の夜伽では無くなりましたが、それは最近、なんだか受け入れられているような気がして、王の気持ちに余裕が出てきたからでございます。
 王妃を絶頂に追いやる瞬間、時折王の背にその手が回ってくる事がございました。 また、明け方、なにやら頭を撫でる気配を感じる時があるのです。王の意識がはっきりしてくるとその気配は消え、王妃は何事も無かったかのように寝息を立てているのですが。







 その夜も王はいつもの様に、王妃の部屋に向かっておられました。  王妃のお部屋は、王城の中でも海側に面した一番眺めのいいお部屋でございました。  王城のある町は、大きな広い湾を持ち、天然の良港を持つ海沿いの町でございました。
 王城は、湾の奥深く、険しい断崖の上に立ち、陸の側からも一際高い丘の上にございまして、美しいながらも、有事の際は難攻不落の要塞として名高い名城で ございました。
 王は、王妃が海に身を投げるような事があっては大変と、始めは陸側の部屋を用意させたのでございます。そのお部屋も大層素晴らしいお部屋で、三方が窓。 王の城下町を一望できる眺めのいいお部屋で、その調度ときましたら、これ以上と申せば、王ご自身の私室のみでございました。

 しかし、どうやら王妃が海をお好きらしいと気づいてから、海側のお部屋に王妃を移したのです。
 夜、王が訪れると、窓が開いていることが何度かあり、不用心であると、侍女たちを咎めたのですが、誰も開けた者がおりません。どうやら王妃自身が窓を開け、潮の香りと波の音を招き入れているらしいのです。
 口を聞かない王妃ですが、促される以外、自ら動くこともまた滅多になく、窓を開けるという行為ですら、大変な出来事と申せました。
 海側のお部屋に移られると、王妃は、ご自分で好んで海の見える窓辺にお座りになられるようになりました。
 一日ただ海を眺め、波の音を聞いておられるだけでしたが、それでも、王妃のご意思らしいものが見えた事に、王は大層お喜びになり、海側の部屋でも一番眺めの良い部屋に手を入れ王妃のお部屋となさいました。

 その王妃の部屋に向かう途中、王を待って、廊下に立っていた者がおりました。高蘭英です。王自らが王妃のために奥向きを統括する責任者として抜擢したものにございます。
 「陛下。お話がございます」
 「いかがした。王妃になにかあったか?」
 「はい、ですがここではお話致しかねます。こちらへ」

 小部屋に案内された王は、気が気ではありません。
 「王妃の身に何かおこったというのか」 
 「陛下。ご心配事ではありませんわ。まだ、確信は持てぬのですが、王妃様はご懐妊なさっているのではないかと」  
「なんだと!!」
 「落ち着いてくださいませ。確信は持てぬと、申しているではありませんか」
 「う、うむ」  
「身近でお世話させていただいている女の感にすぎません。正式には、陛下の許可を得て医師を呼ばねば、なんとも」

 王妃が自分で意思表示をせぬ以上、王妃に関することは全て王を通すことになっていました。医師を呼ぶことすら王の許可を必要としていたのです。

 「そうか。では、早速明日医者を呼べ。そうか・・・・子が・・・」
 そう言って、王妃の元へ向かおうとする王に声がかかる  
「陛下。お話はまだです」  
「なんだ、まだあるのか」
 「王妃様がご懐妊となれば、今は一番大事な時期。夜の方はしばらく控えていただきたく存じます」  
「う、うむ」  
「必要ならば、他の女性を手配いたします」
 「そんなものはいらぬ」
 しばらく睨み合った両者でしたが、  
「大事な妻と我が子に危険が及ぶような真似はせぬ。そこを通せ。えーい。全く使っておらぬ寝台がわしの部屋に転がっておる。それを王妃の部屋に持って 参れ。今宵からはそこで寝る」

 王がそこまで仰る以上、もはやどうにもなりません。
 膝をついて、王をお通しし、寝台の手配をするために高蘭英は立ち去りました。  

 王妃のお部屋へお入りになられますと、今宵もまた窓が大きく海に向かって開かれ、その海風に当たりながら、王妃が長椅子に横たわっておいででした。  
 「夜風はまだ寒いであろう」
 そう申されながら、お手ずから窓をお閉めになられると、王妃の足下に座り込まれました。自然と目が王妃の下腹部へ行きます。そこにはまだ目立った変化は なく、高蘭英の申したことは本当であろうかと思わずにおれません。

 王は、その自分の御子様が、宿っていらっしゃるとおぼしき部分に耳を当てますが、もちろん何もわかりません。王妃の腹を優しく布越しにさすっておられましたが、王妃様に反応はありません。

 いつもと同じく、何も話さず、何も反応せずにただ横たわっておられるばかりです。  やがて、申しつけておいたご自身用の寝台が運び入れられると、王妃を優しくお抱えになり、その豪華なご寝台にお移しになられるとご自分はその隣に並べさせた寝台へお入りになられました。 そうして、王妃のお顔を見ながら、深い喜びとともにお眠りになられました。



 翌朝早く呼ばれた医師が王妃を診察なさいました。
 王は、それにお付き添い遊ばし、その診察が終わるまで、優しく王妃の手を握りしめておいででした。王妃が怖い思いをせぬようにとのご配慮でございまし た。
 診察を終えると医師はその場で  
「いと賢き陛下。その御代が栄えますように。お喜び申し上げます。王妃様はご懐妊なさっておいでです」

 陛下のお喜びになったことは、言うまでもありませんが、王宮中が喜びに沸き立ちました。世継ぎのいない王国というのは、なにかにつけ不安定なものです。
 世継ぎの男子が産まれれば一番ですが、そうではなくても王に子種があるとわかっただけでも一安心です。
 王妃は、所詮卑しい奴隷女ではありますが、王に子を与えてくれればそれで良しとしなければなりません。  なにしろ、王が他の女を拒んでいらっしゃるのですから。  次第に大きくなる王妃のお腹を皆期待に満ちて見ておりましたが、誰よりもその膨らみを喜ばしく見守っているのは王であり、同時に誰よりも心配なさっていました。
 「そなたのこの細い体で大変であろう。男子でも女子でもかまわぬ。そなたが無事であればそれでよいのだ。あぁ、そなたの口が聞けたらのう。どうして欲し いのか知ることができるのに」  
 やがて、王妃の妊娠が傍目にも明らかになる頃に、医師より、夜伽の許可がおりましたが、王は王妃に強いることはありませんでした。  
 「そなたには触れぬ。そなたにも子にも、万が一の事があっては困るからのう。あぁ、ただその肌をみせてくれ。その白い肌を」
 そういって、王妃の夜着を取り払うと、御子様を身ごもられているからでしょうか、その乳は張りを増し、御子様を宿した腹部の膨らみは神々しいほどでし た。
 王は厭かずにその乳と腹を撫でておいででしたが、いきなり後ろを向いてしまわれました。
 ご自分の中心を押さえるようにして、部屋から出て行こうとなさります。  

 その王の袖を引っ張る者がございました。なんと王妃でございます。  初めての王妃からの引き留めにすっかり驚かれた王は、言葉もなく、王妃の方に向き直ります。
 すると、王妃の手が王の大事なところへ伸びて参ります。
 王は下穿きを穿いておられましたので、その上からおずおずといった表現がふさわしい控えめさで手を動かされます。
 王は驚きながらも、夢中で王妃の手を握ると、自らの下穿きの中へ引き入れました。
 そして、もう片方の手で自らの下穿きを取り去ると共に、かがみ込まれ、王妃の顔をのぞき込みます。その紫の目と視線が合ったように感じたのですが、しかとはわかりません。なぜなら、王妃が王の大事なところへその唇をお寄せになったからです。

 王妃の手と唇の動きはぎこちないものでしたが、王妃からの初めての奉仕に王は天にも昇る心地でございました。お世辞にも上手いとは言いかねましたが、王 はすぐに上り詰めました。あわてて、王妃から離れようとなさいましたが、間に合わず、その王精は、王妃の胸の上に弾けることとなりました。
 「す、すまぬ。・・・・・・そなた、やはりわしがわかっておるのだろう」
 しかし、王妃様は王と視線を合わせようとはなさいません。一度は自分を見たと思ったその紫の瞳は、またどこか遠くを見つめています。
 王妃の体を優しく清めながら、王は深いため息をこぼされるのでした。









 王妃のお生みになった子は、男の子でした。  国中が世継ぎの誕生にお喜びになり、慣習に従い、王は祝いとして金貨千枚を国中に配るように申しつけました。

 御子の健やかな顔を見た後、王は、王妃の部屋へ入って行かれました。

 本当は、ご出産の間も付き添うと主張なさったのですが、高蘭英以下女たちに却下されてしまいました。
 曰く  「お産は女の戦場にございます。殿方の出る幕ではございません」  
 
 王妃は眠っておられるようでした。
 ついていた侍女と医師に下がるように申しつけると、二人きりになった部屋の中で、王妃のお手をお取りになりながら、その目覚めをお待ちになることにしました。  

 ほどなく、王妃が軽く身じろぎなさいました。

 「妃よ」
 王は、語りかけます。
 「妃よ。わしにはおまえの考えがわからない。わしとしては、たった一言でいいから、口を聞いてさえくれれば、この上ない幸福者で、なにひとつ言うことは ない。というのは、わしには、なぜかおまえが唖だとは思えないのだ。後生だから、この長い沈黙を破ってたった一言でいいから話しかけてくれ。せめて、そなたの瞳にわしの姿をうつしてくれぬか。そうすれば、わしは、もう即座に死んでもかまわぬ」

 王がそう話しかけられた時のことです。  
 王妃様の手が動かれて、王の手を握りかえしていらしたのです。
 王様の見つめる前で、王妃様の瞳が開き、その紫の目で王を見つめ返してきました。  そして、その頬にかすかな微笑が浮かんできたのです。
 ご覧になって、王は思わず喜びの叫び声を漏らされました。

 やはり唖ではなかった。それどころか、笑みまで浮かべるとは。 これは、いよいよ何か口を聞くに違いない。とそうお思いになって、なんともいえぬ心のときめきに胸を躍らせながら、じっと喜びのその瞬間を待っておられ ました。  
 
 とうとう美しいお妃様は、長い沈黙を破って王に話しかけました。
 「陛下」
 その声は、この国のどんな名高い楽器よりも透明で澄んだ美しい声音でした。

 「・・・陛下。お話申し上げたい事が、あまりにもたくさんございまして、いったん口を開きますと何からお話申し上げてよいかわからぬほどでございます。 まず第一には、陛下が私に授けてくださいましたご親切と名誉に対して、お礼を申し上げねばなりません。どうか陛下に祝福がありますように。そして、ご長寿をお保ちになりますように。そして、どうか私と私どもの子を末永く慈しんでくださいませ。ええ、私の声を聞いたからといって、お隠れになんてなりませんようにお願いいたします」

 そこまで仰ると、王妃は王に向かって微笑まれました。
 その笑みはとても愛らしく、王は、この王妃が笑うことがあったら、どんなにか美しかろうとかねてより思っておられましたが、その美しさは王の想像を超えており、ましてその美しくも愛らしい笑みが自分に向けられているのです。王の胸に熱いものがこみ上げてきました。  

 「陛下。実のところを申しまして、こうして子を授かるという巡り合わせにありませんでしたら、陛下をお愛し申し上げることなどすまいと思い、そして永久に沈黙を守るつもりでした。どうか、この私の一途な気持ちをお許し下さい。今はもう、陛下の妻として、陛下のくださいました情けの何倍もの深さで、陛下をお慕い申し上げています」  

 王の頭の中で『お慕い申し上げています』の台詞が何度も鳴り響きました。

 王妃を優しく抱きしめられると、
 「少し、待ってくれるか。すぐ戻る」
と、言われて部屋を出て行きました。

 お部屋を出られた王は、大臣を呼びにやらせると、やってきたのは、一番若い張奎殿でした。
 有能ではございますが、口うるさく、融通の利かないのが 難点でしたが、その分信頼もできると、王は重用しておられました。
 「張奎よ、妃が口を聞いてくれた。わしは、妃と積もる話がある故、細々としたことは、お主に任せる。王子の事は蘭英に任せてある故、良きに計らえ」

 そうおっしゃると、自らの感謝を表すために、病院、清貧所、孤児院にさらなる喜捨をするように指示なさいました。
 うきうきと戻っていく王を見ながら、張奎は頭を抱えましたが、王妃のこととなると頑固な王のこと故、自分は職務を果たすために戻っていかれました。

 憮然としつつも、恋仲の蘭英と公然と話ができると思うと、にんまりしてしまいます。  高蘭英の所に行って、子細を話すと
 「まぁ、よかったこと」  
 「なんだ、王妃が話せるって知っていたのか」
 「いいえ。もちろん、知らないわ。知っていたら、あなたに話しています。私もさっき、そう思ったばかりなの。王子様のお顔を王妃様にお見せしたら、にっこりと嬉しそうにお笑いになったから。唖だとしても、阿呆じゃないってね」
「早く、陛下に教えて差し上げればよかったのに」
「だって、勘違いだったら大変な事よ。だから、陛下にこっそりお話しようと思っていたのに、王子様のご誕生で皆、大騒ぎでしょ。お伝えできなかったのよ」
「そうだったのか。ものすごい浮かれようだったぞ」
「あらまぁ。それじゃ、しばらく、出ていらっしゃらないわね。あなたがしっかりしないと。明日には、各国の大使の皆さんもやってくるでしょうし」
「あぁ」
「頑張って。腕の見せ所よ」


 王が部屋に戻っていらっしゃると、王妃は寝台の上から、にっこりと微笑まれました。
 ひょっとしたら、あれは夢だったのではないか。あるいは、部屋に戻ったら、王妃がいなくなっているのでは、と内心心配していた王は、そのお顔をみて心底ほっとされました。

 「待たせてすまぬ。そなたとゆっくり話したいと思うての。邪魔が入らぬように手配してきた」
 そういいながら、王妃様の傍らに座り、そのお手をとります。
 「王妃よ。そなたに聞きたいことはたくさんある。だが、まず、そなたの名を教えてくれぬか」
 「はい陛下。普賢と申します。それが私の親から与えられた名にございます」
 「普賢。普賢と申すか。普賢よ、我が心の光よ。ようやくそなたの名を呼ぶことができる。だが、どうして今まで口を聞いてくれなかったのだ。もちろん、わしのやり方がようなかった事はわかっておる。そなたの了解も得ずに結婚したわけだからな。そなたが否といってもそなたを買って、我が妻としたであろうしの。だが、もうちっと早う口を聞いてくれても良かったのではないか。そなた、身籠もっていた時、わしを手で慰めてくれたであろう。あの時でも良かったので はないか?」
 「陛下、そうでございますね。でも私も意地になっていたのです。だって、ご想像くださいませ。遠く故郷を離れて奴隷の身となるということを。故郷から離され、家族とも永久に会えることは無いのですよ。まして私は、元々は陛下と同じく自由の身。そう陛下と全く同じ身の上、王の娘として育てられて、教育を受けた女でございます。それが、自由を奪われ、奴隷の身になったのです。私の悲しさ、惨めさが、お優しい陛下ならおわかりでしょう。その様な境遇になった女が、どれほど意固地になれるものか、ご想像に易いことでございましょう」  
 「なんと、そなた王女だと申すか?」
 「信じられませぬか?」
 「もちろん信じる。そなたの立ち居振る舞い、誠に王族の気品というものであるからのう。さぞや、父王、母妃の誉れであったに違いない。して、何故にそなたは奴隷などという境遇に陥ることとなったのだ。良ければ話してくれぬかのう」
 「陛下。陛下がお望みならば、お話しいたします。お聞き苦しいこともたくさんございますが、夫たる陛下は全てお知りになる権利がございます」  

 そうして、王妃様は自らの物語を語り始めました。