「思ったより、早かったね。望ちゃん」
開口一番、その言葉が口をついて出る。言いたいことは、たくさんあったが、まずは無事な姿をこの目で見ることができて嬉しかった。
仙界大戦から二年。女媧との戦いの最中に言葉を交わしたきりだ。
さぁ、なんて言ってやろう。そう思って、彼の方に歩み寄る。
しかし、近づいたその手を取られ、言われた台詞は、
「さぁ、やるとしようか」
にやりとした笑み
え?と思うまもなく、空間が変わって、自分の寝台の上にいるのに気づく。
始祖の力をこんなことに使って・・・と、呆れてため息が漏れる。
そのため息をこぼす間にも、身体が寝台に倒される。
「ちょっ、望ちゃん。待って、望ちゃんってば」
「待てぬ。させてくれ」
「ちょっと、望ちゃん、他に言うことあるんじゃないの」
「あるやも知れぬ、だが、先にこっちだ」
あきれ果てて、言葉も出ない。
ついて出たさらに深いため息に、ここまで強気だった男から、気弱な声が漏れた
「嫌か?」
「嫌じゃないけど、もっと、こう、話をしてからでもいいんじゃないの? いろいろあった訳だし。第一、簡単に寝るなって、ちゃんと気持ちを交わせ、って言ったの望ちゃんでしょ」
「確かに、そう言った。言ったが、話とは言ってものう、わしら、もう十分語り合ったのではないか?」
確かに語り合った。太公望と自分は。
今更だ。だが・・・
「させてくれぬかのう」
そう言って太公望の手が、普賢の頬をなぜた。いつの間に外したのか、あの分厚い手袋をしていない。
素のままの手の感触が暖かく、気持ちよかった。
「望ちゃん・・・」
「ん、なんだ、してよいのか」
普賢の声音の微妙な変化を感じ取ったのか、調子の良い声が返ってきた。
「望ちゃん・・・・そう呼んでいいの?」
「・・・あぁ、そう呼んでくれ。そう・・・呼ばれたいのだ」
「うん。」
寝台に投げ出されていた普賢の手が持ち上がって、太公望の背と頭にかかる。太公望を柔らかく抱え込むと、太公望の体重がそのままかかってきた。
その重みを心地よく感じると同時に、口づけが降ってきた。
「ん、・・・はぁ、ん」
何度も、何度も追い上げられる。
不思議だ、と思う。
自分は魂魄体で、肉体はないのに、肉の喜びを感じる。
魂魄になっても、確かに自分というものがあって、魂魄体の自分と他を隔てる境界がある。
その境界は、かつての姿、かつての肉体の形で形成されている。
自分の魂魄が作り出す形だから、他の形でもいいと思うのに、皆、肉体があった頃の形を取る。それが一番しっくりくるとでも言うように。
他の形では存在できぬとでも言うように。
自分もまた、かつての普賢の姿をとっているが、かつての自分ではないことも分かっている。自分で選んだ形をとる精神体にすぎない。
だから、こうやって、何度も追い上げられているうちに、自分の姿が保てなくなるのではという怖さがある。快楽の果てに自分を失えば、その身を保てずに消滅するのではないかという危うさだ。
だが、それでもいいと思う。
望が望むなら、それでもいい。
その危うさが、かつて何度も男に触れられたその身をして、愛撫にたいして身構えさせる。
まるで、初めてのように、肌が触れあうのに、身構え、警戒を解き、応えを繰り返す。
気持ちの良さに、たゆたいながら、同時に緊張もしている。
その緊張を太公望が楽しんでいるのが、分かる。
ひどいなぁ、と思うのだが、怒れない。
なぜなら、楽しんでいるくせに、同時にその緊張を、解きほぐそうかというように愛撫を全身に降らせてくるからだ
手で、舌で。普賢が快楽に打ち震える場所全てに。
普賢が感じる場所全てを、ひたすら攻めてくる。手でこすり、舌でなめ、歯で甘噛みし、吸い上げられる。
少しでも反応すれば、そこの愛撫だけで、普賢が果てるまで、責めあげた。
「はぁ、あ、、ん、・・・望ちゃん・・・」
何度も何度もいかされる。それでも、許してもらえずに、すぐ次の責めがはじまる
正直言えば、ねちっこい愛撫と言えた。
だが、優しい。普賢にはわかる、大事に扱われているのが。
確かにこの男は、普賢の緊張を楽しんでいる。
それは、意地が悪いと思う。
でも、同時に普賢の快楽を最優先にしている。
普賢を何度も追い立てておいて、自分自身はまだ1回も達していないはずだ。
それでいいんだろうか、と思う。
宇宙人になったから、身体の構造変わっちゃったのかな。
それとも、何も感じていないとか?
太公望の背に回していた手の片方を外して、、太公望の前に手をのばすと、それが力を持ち自己を主張しているのにふれた。
あぁ、良かった。望ちゃんも、気持ちいいんだね。
良かった、そう思って軽く握り込む。
その力づよい感触うっとりしそうになるところで、止めが入った。
太公望の手が伸びてきて、普賢の手首をつかんだのだ。
それもかなり強い力で。
驚いて普賢の手の力が抜けると、その瞬間に、太公望のものから手を引き離された。
驚いて太公望を見あげると、憮然とした表情をしている。
愛撫も中断している。
「嫌なの? 望ちゃん・・・・」
悲しい気持ちになりながら、太公望を見上げると、太公望はいきなりおろおろし出した。
「嫌、なわけではない、そんな顔せんでくれ」
「じゃぁ、どうして」
「お主の手はのう、危険だからのう。今も、もうあと少し触れられていたら、暴発しておったわ。だいたいあの時だって、間一髪だったわ」
「あの時?」
「二人で人間界にいったであろう。釣りをして、星をみて」
「ああ、あの時のこと。望ちゃん、忘れているのかと思った」
「忘れるわけなかろう。なんで、そう思うた?」
「だって、聞仲と戦う前にその話したら、『そんなこともあったかのう』なんて、言ってたじゃない。だから、望ちゃんにとっては、その程度だったのか、と思って」
「んなわけなかろう。あれは、わしの大事な思い出だ。聞仲との決戦の前に決心鈍らせる訳には、いかんくてのう」
太公望の手が、つかんでいた普賢の手首から離れて指先に移ってくる。手が離れてしまうのが嫌で、それに指を絡めて引き留める。
「ほれ、この手がのう」
「手が、何?」
「あのとき、お主の手が、わしの一物に伸びておったら、勝負は決まっておったわ。お主の中で、永遠に蕩けていたくて全てを放り出したであろうよ。あの瞬間が、封神計画の一番の危機だったのう。」
「望ちゃん・・・ちょっと、オヤジくさくなったんじゃない?」
「致し方あるまい。これもわしだ。嫌か?」
「ううん。もっと、知りたい、望ちゃんのこと」
「そう言ってくれるか。・・・だぁ。だから、わしのモノに触るでない。知りたいってそれか???」
「そうじゃないけど、だって、望ちゃん、1回もまだ、あの、してないでしょ? いいの? 感じないの?。望ちゃんにも気持ちよくなって欲しいんだけど。どうしてあげたらいいの?」
「感じ取る、と言うとろうが!!」
普賢の手にさらりと触れられただけで、弾けそうだとういうのに、どうしてわかってもらえないのか?
「後で、お主の中で、思いっきり感じさせてもらうわ。今は、の、まだだ」
耳元でささやくと、濃厚な性技が再開された。
あおられて、肌という肌、全てが性感帯になったかのように感じる。
触れられる場所、全てが愉悦をもたらす。
たまらなかった。
太公望の口に、そこを含まれたときは、体中が震えた。それだけで達するかと思ったほどだ。
「望ちゃん、ちょっと、だめ・・・ん、や、出ちゃう」
こらえようと膝を閉じようとしたが、太公望の手に阻まれる。膝の後ろから差し入れられた手が抱え込む形となり脚を閉じることを許さない。
その手で足を大きく一撫でされて、その刺激に背筋がそる。
「やぁ・・・、」
太公望の頭に手をやって引きはがそうとするが、与えられる快楽で、力が入らない。
髪を軽くかき混ぜるだけの動作にしかならない。
かつて、何人もの男たちにこうやって奉仕した。その喜ぶ顔を見るのが、自分の快楽だった。
だが、自分がされる側になったことは、ほとんどない。
それも、軽く舌で触られた程度で、こんなにされた事はない。
「やだ、望ちゃん、や」
太公望の喉の奥がうねり、その吸い込まれるような刺激に耐えきれず、達した。
たまらなかった
後日、普賢の方が奉仕した後、わしのモノを咥え飲みこむのは平気なくせに、どうして自分に施されるのがそんなに嫌なのか、どういう心理だと太公望に首をひねられたものだ。
身体に力が入らない。
「はぁ・・・だから、駄目っていったのに」
まだ、自分の中心部に顔を寄せる太公望を見下ろす形になりながら、涙目で抗議する
顔を上げた太公望は、にやり、としながら
「なんで、駄目なのか。お主の精は、こんなに美味いのに」
そう言って、見せつけるように舌を出して、未だこぼれ落ちる普賢の精をすくい上げて見せた。
「ん!・・・・」
声が漏れる
それに気を良くしたのか、太公望は普賢の先を丁寧に、そしてこれ見よがしに舐め始めた。時折、視線を上げて、普賢の快楽にあえぐ顔を楽しんでいる。普賢のそれを丁寧に舌でぬぐっていた太公望だったが、つと先端部に舌を押しやる。
舌先でそこを軽く広げてやると、普賢がひときわ大きく息を飲むのがわかった。
普賢の顔を見上げながら、そこを再度舌先で押しやりつつ、吸い上げる。同時に手を添えて軽く刺激を加えてやった。
見上げた視線の先で、大きな息をつきながら、普賢が達する姿を、深い喜びと共に味わう。
力の抜けた身体で、今度こそ、一息ついて、と思っていたら、太公望の手がまた動き始めた。
「ちょっと、望ちゃん・・・・あ・・・・」
太公望の指が後ろを探り始めている。後庭の入り口をなぞる。
その意味するところが分からぬ普賢ではない。太公望が楽なよう少し身体をずらしてやる。
程なくして、太公望の指が自らのうちに入ってこようとするのがわかった。
それを迎え入れようと、力を抜こうとするのだが、うまくできない。
先に進めず、太公望が困っているのがわかるのだが、どうにも身体がこわばった。
魂魄体の身だから、身体の内側に差し入れられる行為は、その形、境界への侵害だ。自分の形を保てなくなる恐怖か、はたまた、魂の内部への浸食を恐れているのか。太公望を受け入れられない。
太公望が、手を休めて、自分を見上げてくる。困ったような、情けないような表情。
無理に先に進めてもいいのに、普賢の許しを待っている。その表情を何ともかわいく感じる。
「やめないで、望ちゃん」
ささやくように言って、両腕を伸ばして、太公望の顔を少し引き上げる様にし、口づけを求める。
もう何度も口吻を交わしたのにも関わらず、求めに応じて与えられたこの口づけは、始め遠慮がちだった。
しかし、普賢の側から軽く舌をさしだして太公望の唇に触れると、すぐに深い口づけに変わる。
差し入れられて、舌と舌が絡む。
口内をまさぐる舌の厚みが心地よい。
大丈夫。口内を探られても怖くない。
大丈夫。これと同じこと。
望ちゃんを身の内で感じたい。
「・・・望ちゃん・・・続けて・・・・お願い」
そう太公望の耳元にささやくと、太公望の手を取って導く。
「お願い・・望ちゃん」
太公望の唾液と自分のこぼした雫と混ざったモノを塗り込められながら、太公望の指がおずおずと円を、描きつつ入ってくる。自分の体内より冷たい指の温度が異物の感触を強くする。
身体がこわばりそうになるたびに、太公望に口づけを求め、それに応えてもらいながら、吐息と共に力を抜く。
少しづつ、入ってくる感触がたまらない。
魂への浸食。混入。混和。癒合。
口づけられながら、その指が体内に埋められいく、その融和がもたらしてくる喜びに打ち震える。自分の中に相手がとけ込んでくるこの喜び。
そして、奥深く埋められた指が軽く折られて動かされ、別の愉悦を生み出し始めた。
不思議。そう思う。精神で作った魂魄体なのに、かつての肉体と同じように快楽を感じるなんて。
快楽を感じる場所も同じだなんて、不思議だ。
身の内に埋められた指がもたらす喜びは、肉の喜びであると同時に、融和に対する魂の喜びでもある。
魂と身体の境目って、どこにあるのだろう。
どこにも無いんじゃないかしら。
身体の境界が魂の境界で、この二つは分かちがたいものなのかも知れない。
魂魄体だけで動きつつも肉体の解放を求めていた女媧や、その同類である太公望、つまり伏羲は、この命題をどう思っていたのだろう。
魂魄があればどうとでも、といいつつ、肉体の意義を無視できなかったのではないか。
そんな物思いから引き戻すかのように、指の数が増やされ、動きが妖しくなる。
「ん、あ・・・ん・・・」
思考に霞がかかり始めた。
「望ちゃん・・・いや・・・あ、お願い・・・ん」
何度も何度も高められる。
先ほどまでは、そのままいかせてくれたのに、後庭を責め始めてから、まだ、一度も達することを許されていない。
いく、と思うと、太公望の指の動きが止まる。
それが、もどかしくて自分で腰を動かして熱を放出しようとするが、今度は、その根本に太公望のもう一方の手が作った指の輪がかかり阻まれる。
「んん・・・」
どうにか、熱をやり過ごしたと、思うと、また身の内の指が動き始め、追い上げられる。
その繰り返しだ。
加えて、解放を許されずに張り詰めたそれに、唇が寄せられ、含まれる。
それとは微妙にずらされたリズムで、後庭からの刺激が与えられ、そのずれのもどかしさにまた、高められていく。
もうどれくらいそうしているのだろう。
声がかすれて、上手く言葉が継げないほどだ。
意識を手放そうとして、また引き留められる。
その切なさに、泣きそうになった頃、太公望の身体がずいと上にせり上がってきた。
身体全体にかかる重みの心地よさに、思わず背に回した手で、自らの方に抱き寄せると、口づけが久しぶりに唇に落とされた。両の手は普賢の快楽の源から離さないまま、口づけが唇から瞼に移り、こぼれそうになった涙を舐め取られる。その優しい感触は、手からもたらされる激しい快楽とはあまり落差があって、思わず笑いそうになるほどだ。
「・・いいかのう?」
「・・・な・・」
何が?、と言おうとして、上手く声が出なかった。
「その、いいかのう? お主の中に入ってもいいかのう?」
馬鹿馬鹿しい問いだった。
この状況で、聞く?
手は普賢の大事な所を握ったままだし、後ろを探る指だってそのままなのに。
「いいかのう?」
あまりの馬鹿馬鹿しさにあきれかえりながら、頷いてやる。
「うん」
どうにか出た声で承諾を与える。
にも関わらず
「いいかのう? 後悔せぬか?」
しつこかった
「なんで、・・・・後悔する・・・なんて、思うの?」
声をかすれさせながら、言葉を出す。
「したら望ちゃん、死んじゃうとか?」
「いや、そんなことは無い」
「じゃ、まだ大きくなるの? 大きすぎて入らない、とか?」
「だ、大丈夫だ、ちゃんとお主の中に収まる程度のサイズしかないわ、残念ながら」
「じゃ、何をそんなに心配しているの?」
「むー、そのなんだわしと交わるとだなぁ、一つになるわけで、つまり・・・・」
言いよどんでしまった。
「望ちゃん。大丈夫、僕は後悔しないよ。したとしても恨んだりしないから、大丈夫。それより、望ちゃんの身は大丈夫なんだよね?」
「わしは、大丈夫だ。そのお主が・・・」
普賢の手が、太公望の口元に伸びて、優しく塞いでその先を言わせなかった。
「大丈夫。大丈夫だから、来て。連れて行って」
それが、自分の望みだ。
後悔することがあるとしても、ここでやめて味わう後悔の方が絶対つらい。
身の内に太公望の熱が分け入ってくる。
冷たく感じた指より、むしろ違和感はないかもしれない。
指とは違うその質量が、遠慮がちに入ってくる。
ゆっくり、ゆっくり。
馬鹿みたいに丁寧で、いっそもどかしいくらいだったが、その気遣いが嬉しくて、背中に回した手で、早くと促したくなるのを我慢する。
時折、ついばむような口づけをしながら、すっかり納めてしまうと、太公望は深い息を吐いた。
その気持ちよさそうな表情は、普賢にも喜びをもたらす。
「動いてもいいかのう・・・・」
この期に及んでまだ言うか。もう、何回呆れてため息をついたのやら。
「望ちゃん。・・・お願い・・・・来て・・・」
軽く腰を動かしながら、太公望の臀部を優しくさすった。
「ん、や、あぁ・・・・望ちゃん・・・・や、また・・・」
内側から、太公望の熱にあおられてまた達する。
指で、手で、ほぐされた身体は容易に達する。
「や、ねえ、望ちゃん・・・望ちゃんも、はぁ・・・・んん」
挿入されたら、今度こそすぐにも頂点を迎えて終わるだろうと思ったのに、そうはならなかった。
太公望はまだ一度もその熱を放っていない。
自分の熱はそのままで、何度も普賢にだけ放出を強いる。
ねぇ、望ちゃん。望ちゃん、一緒にきて。
声にならない声に、にやりとした笑みが返ってきて、不思議にほっとする。
一層激しくなった動きに翻弄されながら、しがみつく。
そして、自分が達するのと同時に、太公望の熱が自分の中に放たれたのが分かる。
その熱さ、喜びにうっとりとしながら、意識が沈む。
意識が・・・・・・融ける。
ああ、なるほど、と、思った。
交わるとは、こういう事だったのかと。
意識が、完全に混じり合っている。
今、自分は、普賢という意識体であるが、同時に太公望、そして、伏羲でもあった。
彼の感じていること、感じたこと、記憶、その全てが自分の事として、わかる。
なるほど、と、重ねて思った。
仙人界にいたときには、無理だった、と。
今、魂魄だけの身になりはてて、だからこそ、この状態でも、普賢という存在を保つ事ができている。
肉体が在ったときには、おそらく無理だった。これほど自分の魂魄の存在を意識していなかった。
おそらく、融合した瞬間に、この男の長い永い記憶と情報量に、たやすく飲み込まれてしまったに違いない。
飲み込まれて、そのままとなり、もはや普賢としての意識の集合体になることは無かっただろう。
今、この瞬間の様に、普賢、としての自分を保つことはできなかったはずだ。
かつて仙人界で、断固自分を拒んだのは、こういうことだったのか、と思った。
太公望の中の存在が、それを告げたのだ。
そして、この期に及んでも交わるのをためらった理由の一つも分かった。
王天君として、自分を封神したのを気にしていたらしい。
伏羲としての酷薄さを見られたくなかったらしい。
そんなこと、全く気にしていないのに。
僕はあの場に、全て納得して立っていたのだから。
誰の意志でもなく、自分の意志として。
仙人界にいたときに交わっていたって、良かったのに。
融けてそのままになってしまって、自分は全くかまわなかったのに。
解け合って、一つになって、埋めてあげたかった。
少しでも早く、少しでも、その孤独を。
解け合ったこの状態で、全てが自分の事としてわかるこの状態で感じること。
それは、悠久の孤独。
遠い失われた故郷の記憶。
その後の旅路。
仲間たちとの別れ。
女媧が再生と破壊を繰り返す世界を、ただ一人、傍観者として見つめる歳月。
その果ての、王天君としての孤独、憎しみ、そして妲巳への思慕
その暗闇の中に、宝石のように煌めく呂望としての記憶もまた、喪失の痛みを伴っている。
解け合って、その孤独を埋めてあげたい。融けた自分で、孤独を薄めて欲しい。
解け合って、一つになって、包んであげたい。
このまま解け合って・・・・・彼我のない境地で・・・。
彼も、我も、無く、一つの存在として、永遠に。
思っていた通り、普賢の中は気持ちよかった。
王天君としての自分、伏羲としての自分、心配していたことなど、まるで無かったかの如く許される。
分かっていた。普賢の中に沈めばこうなると。
心地よい。
たかだか百年の歳月も経ぬ存在に、これほどの安らぎを覚えるとは。
おそらく太公望の状態で交わっていれば、この安らぎから抜け出ることはかなわなかったに違いない。
女媧の災厄を止める、という永の年月の志は、容易に失われていただろう。
始祖という存在に還ってすら、この心地よさは離れがたい。
この魂魄の中に漂って、永遠の眠りについてしまいたい・・・・・・・