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「陛下、お願いがございます」

 いつものように、夜の一戦を終えてたゆたっていたところ、王妃が改まっておっしゃいました。

「なんじゃ、改まって。申してみよ」

「高蘭英のことです」
「蘭英がどうした。何か問題でもあるのか」
「蘭英に不満はありません。よく仕えてくれています。」
「では、どうした」

「蘭英と大臣の張奎殿が、恋仲な事はご存知ですか」
「なんとそうなのか?」

「女達の間では、公然の噂です。それで、私、蘭英に確かめましたの。そうしたら、確かに二人の間では気持ちを確認しあっているとの事です。ただ、張奎殿のご親戚筋がいい顔をなさっていないということで、お話は進んでいないようです。大分、家格が違うのだそうで」

「確かに、張奎の家はこの国有数の名家じゃからな」
「もちろん、これは蘭英から聞いた話で、ひょっとしたら、張奎殿が蘭英を謀ってその気にさせているだけで、張奎殿には、誠のお気持ちはないのかもしれません」

「いや、あやつはそんな器用な男ではないわ」

「私も陛下から、お話を聞く限り、張奎殿はそんな不実な男ではないと思っていますわ。でも、ここまで噂が広まった以上、張奎殿とお話がまとまらなければ、蘭英はもうどこにもお嫁に行けません。私としては、このまま蘭英が勤めてくれれば、その方がいいくらいですが、蘭英のためには、このお話まとまって欲しいと思っております」

「で、なるほど、わしの出番、というわけか」
「はい、陛下が張奎殿にお聞きになって、確かに蘭英を妻にする気があるのならば、陛下のお声がかりで、このお話をまとめて欲しいのです」
「ふむ、容易いことじゃ。蘭英はよく仕えてくれたしの。報いたいものじゃ」

「それで、二人が結婚したら、二人を新婚旅行に行かせるのはどうですか」
「なんじゃ、そのシンコンリョコウというのは」

「新婚旅行とは、結婚したての夫婦が二人っきりで旅行して、親交を深めるという、海の王国の風習です」
「ふむ、で、それでどうする」
「周の国へ行かせるのはどうですか」
「周か、最近、代替わりしたのう」
「そこに女達の間では有名な廟があるのです。子宝と安産のご加護があるそうです」
「なに、そなた、身篭ったか」
「いいえ、残念ながら。でも陛下との子なら何人でも欲しいですわ。それでその廟にお参りしたいのです。でも私が行くわけには参りませんでしょう。ですが、代参でもいいそうなのです。ただし、女が代参する必要があるのです。」
「それで蘭英か。なるほど、蘭英を行かせるには、いい理由だな。そして、周に行く途中には、趙公明の領地か」
「そういうことです」
「大臣とその妻が訪れれば、趙公明も歓待せぬわけにはいかぬ」
「大臣の妻ならば、趙公明の妹達にも会えましょう。私も一筆書きますわ」

「断る理由はないな。」
「蘭英ならば、女傑達の考えをきっと聞き出してこれますわ。そこまでできなくとも、人となりはわかりましょう」
「流石だな。だがいいのか、蘭英を手放して大丈夫か。」
「蘭英がいてくれれば心強いですが、もう私一人でやっていけると思います。蘭英にも好きな人と幸せになって欲しいですわ。それに、大臣の妻ならば、王妃がお友達としてお茶に呼んでもいいですわよね」

「うむ。ところで、そなたも新婚旅行とやらに行きたかったのではないのか」
「まぁ、私は王の娘です。二人っきりで旅行なんて、子供の頃から無理とわかっていましたわ。」
「むぅ、二人っきりは無理でも、一緒にどこかに行きたいのう。近くの廟とか温泉とか、なんとかならんかのう」


こういうやりとりを経て、張奎大臣と高蘭英は無事結婚し、使命を帯びて、旅立って行きました。



 この国では、これから後、下級貴族や庶民の娘を、後宮に勤めさせ、王や王妃に目をかけられて、上級貴族の下へ嫁がせるというのが大流行しました。
   
 王妃は、嫁いでいった娘達をよくお茶に呼んでもてなしました。その繋がりは、王の治世を大変助けたとのことです。