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    それから、どうなったかって。
 僕は臨床医をやめた。

 向いていなかった。望ちゃんの知らせを聞いて、僕は激しく動揺して、使い物にならなくなった。
 それじゃ、臨床医は務まらない。
 病院で働いている人は、みんな、少なくとも僕の知っている人はみんな、公私の別をわけて働いていた。患者さんに尽くしていた。
 たぶん、日本全国どこに行っても、僕のようなのは、臨床医として役に立たない。

  それで、結局、研究者になった。
 研究者の方が楽って訳じゃないけど、少なくとも自分のペースで働けるし、自分のミスが、命に直結しない。
 いろいろ考えたんだけど、老子の
「普賢は研究者が向いている」
の言葉でそうすることに決めた。
 
 勤めた病院の先生方は、別れを惜しんでくれたが、研究者を目指すといった僕に、それがいい、と賛成してくれた。やっぱり向いていないって思っていたんだろう。病院の職員さんは、盛大なお別れ会を開いてくれた。 
 病院の先生方とは今でも親交がある。東京に先生方が出てくると、一緒にご飯を食べたりする。 時々、匿名化されたデータが送られてきて、統計処理のお手伝いもしている。病院からは、英訳や中国語訳の依頼があったりして、おつきあいは続いている。


 ちなみに、いろいろ考えた中には、父さんの後をついで、望ちゃんの家で執事をするってのもあったけど、父さんが嫌がった。
 「せっかく医学部まで出たのに、それは」
といい、老子にも、
「普賢の医学部卒業までにどれだけ税金が投入されたと思っているの。免許をいかす形で、なにか社会に還元しないと」
 と言われて、却下となった

 
 ただ研究者って言っても、ポストがそうそう空いているわけじゃない。僕は望ちゃんが作ってくれた研究所の研究員として収まった。
 そこで義肢や義足の研究をしている。研究中に作った部品の一つが、今、崑崙財閥の関係の工場で採用されている。自分でも画期的だと思ったその部品は、結構、役に立っていて、望ちゃんには
「研究所に投資した分の元はとれた。わし、ベンチャー企業させてもいける、と株がうなぎ登りじゃ」
 と、言ってもらっていた。

 望ちゃんは、最初、僕を研究所の所長にしようとした。が、断った。柄じゃないし、だいたい何の実績も無い僕にそんなのが務まるはずがない。すったもんだしたあげく、僕は、楊戩を推薦した。
 僕の学校の医学部の2年下の後輩だ。秀才揃いの僕の学部でも、あれは、別格、本物の天才だ、と入ってきてすぐ噂になった人物だ。
 ベンチャー企業も兼ねた研究所にふさわしい若い人材として彼が適任だと思った。
 楊戩と望ちゃんは、会うやいなや意気投合した。
 楊戩は僕らの期待に違わず優秀で、今、3つか4つの自分の研究を平行して進めながら、他の研究員の指導もしている。対外活動も得意で、政府関係の機関から、相当な予算を取り付けることにも成功している。
 楊戩は、僕らの仲を知っている。というか研究所中が知っている。
望ちゃんが、頻繁にやってきては、僕らの仲を知らしめて帰って行くからだ。特に何か言うわけじゃないが、おそろいの指輪をはめて、一介の研究員がスポンサー様と親しく話していれば、もう何をかいわんや、だ。
「師叔もういい加減にして下さい」
と、楊戩からは言われていたが、スポンサー様の訪問を断れるはずもない。望ちゃんはもう、僕らの仲を隠したりしなくなった。会社にも指輪をつけて行っている。


 

 そうそう、僕たちは、僕たちが育ったお屋敷に戻った。望ちゃんは怪我をして戻ってから、そのままお屋敷住まいに戻っていた。
 邑姜さんが、そう望んだし、使用人一同も懇願したからだ。
 
  僕の方もお屋敷に戻った。
望ちゃんの恋人というか愛人として戻ることに抵抗がなかった、と言えば嘘だけど、望ちゃんに、考えがあるから、と説得された。
 今はもう、望ちゃんの部屋で朝も夜も過ごす。みんな、僕らを連れ合いとして扱う。

母さんは
「・・・・こうなると思っていた」
といい、父さんは
「おまえが幸せならいい」
と、あきらめたような顔だった。
 
 お屋敷に昔からいるメイドさんの中には、僕に
「良かったね、普賢君。望様のこと幸せにしてあげてね」
と囁く者もいた。

 ああ、邑姜さんと姫発さんも同じ屋敷の離れに住んでいる。
「わしらの間に齟齬があると良くない。一緒に住むのはどうじゃ」
と望ちゃんがそう言って、長い間締め切られていた別棟を開けた。
 最初、別棟には、僕らが住むはずだったが、邑姜さんが断ってきた。
「本棟には、望兄様が住んで下さい。兄様が当主です。皆、兄様を主として慕っています。別棟も十分広いです」
 そんな訳で、今、邑姜さん達夫婦は、子供達と別棟に住んでいる。

 朝食と夕食は、その子供達を交えて、本棟でみんなで囲む。僕もその輪の中だ。最初、遠慮したが、
「普賢兄様、何いっているんですか。私たち家族になるんですから、ご飯は一緒じゃなきゃ駄目です」
「そうそう、俺達と太公望の意見が分かれたら、仲裁してくれなくちゃな」
 そう言われて、押し切られた。
 なじみのメイドさんに給仕してもらうのは、かなり恥ずかしかったが、いまではそれにも大分慣れた。

 望ちゃんと、姫発さん、邑姜さんは、夕食の後、よく書斎で、三人で語り合っている。たぶん財閥の事だと思う。
 僕はその間、邑姜さん達の子供達の相手をして過ごした。

 財閥内は、望ちゃんを後継者として、姫発さんとともに二頭体制で、その次の代は、姫発さんと邑姜さんの子供、ということで了承しているらしかった。
 望ちゃんは、僕とのことを隠しもしない。皆、もうしょうが無いとあきらめているようだ。

 そう、望ちゃんは隠さない。最近は、同性婚の集会なんかにも出ていて、僕にも行こうと誘ってくる。さすがに僕はそこまでの覚悟は無くて、ごめんね、と言っている。でも、近いうちに連れて行かれそうな気がする 
 
 そう、覚悟が足りなかったのは僕の方。
 一方、望ちゃんはいつでも真剣だった

 留学中のテレビ電話の件も、望ちゃんなりに真剣だったらしい。

 望ちゃんは、留学時代のテレビ電話でのセックスは燃えた。と語った。録画機能があればいいのに、と思っていた、と。お主が、わしの映像の流出を恐れていたのは、わかっていた、と。
 わしは、流出してもいいと思っていたとも言った。流出して、お主とわしの仲が知れ渡れば、お主も観念するのでは、と思っていた、と。

 今でも、出張の時は、まめに電話をくれる。電話越しにきわどい言葉も言って、留学中のテレビ電話を思い出させる。
 今は、出張中は、テレビ電話を使わない。それは
「お主の画像が流出して、他の者がみると考えた。それには我慢できぬ、と結論にいたったわ。」
と言っていた。

 

 ああ、それから、お屋敷には、人が増えた。
 運転手を新たにやとったのだ。新しい運転手は四不象。
 望ちゃんのご両親が亡くなったとき、車の運転をしていて、大けがをした運転手さんの息子だ。
 働けなくなった運転手さんの一家を、望ちゃんはずっと支援していたらしい。その息子さんが高校を卒業したと聞いて、うちで運転手はどうじゃ、と声をかけたということだ。
 四不象は、速くてそして丁寧な運転で、望ちゃんを満足させた。
 
 僕たちは、時々、四不象の運転で、休日にドライブに出かけるようになった。結構楽しい。

 それと、望ちゃんには、お気に入りの秘書ができた。
 武吉君だ。君、と呼ぶのは成人男性にどうかと思うけど、望ちゃんから、話を聞く限り、好青年過ぎて、どうにも武吉君と呼びたくなる。


 そう、僕たちはいろんな事を話す。 日常のこと、職場のこと、たわいも無いこと、いろいろだ。
 そして、夜は一緒に寝る。セックスすることもあったし、しない夜もあった。
 けど、たいていはしているかな。
 望ちゃんは、まだ飽きていないみたいだ。僕も飽きていない。
 望ちゃんはいろんな体位で、いろいろ試して見たがった。
 うん、今では、向かい合ってすることも多い。いく瞬間の望ちゃんの表情が見れて、僕も好きだ。どうして、この表情を見ないで平気だったのだろう、と思うほどだ。
 終わった後、望ちゃんのモノを受け入れたまま、キスしてもらう。
その瞬間、堪らなく幸せを感じる。

「わしのことが好きか」
 望ちゃんは、何度でも聞いてくる。
「うん、好きだよ」
 僕も何度でも答える。

 そして、先に寝ちゃった望ちゃんの顔を見ながら、何度でも思う。

 ごめんね、長い間待たせて。
 そして、ありがとう、待っていてくれて。

 もう、望ちゃんの手を離したりしない。
 一人にしない。
 
 この寝顔をずっと見ていたい。
 そう思いながら、隣で眠る望ちゃんの体温を心地良く感じながら。僕も眠りに落ちていく。



 〈了〉