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「ん、や、やだ、望ちゃん、離して・・・ん、やぁ」

 太公望の最近のお気に入りは、縛り、つまり緊縛だ。

 普賢の細い手を上に縛り上げて、天井から吊す。
 普賢の手が痛くないよう丁寧に、しかししっかりと縛る。

 足が床につくかつかないかのぎりぎりの高さに固定する。
 体重がかかりすぎて、肩が痛くないように、つま先が少しだけ床に触れるようにしてある。

 「ね、望ちゃん、解いて、ね、・・・あ、ん、そこ、いい・・・あぁ・・・」

 解いてと頼んでも、なかなか解いてもらえず、最近は縛られたまま、同時に弾けるようにまでなった。手が自由にならないもどかしさが生み出す快楽に馴染みつつある。






 
 最初に縛らせて欲しいと頼んだときは、何と言葉を返されるかと思いかなり緊張した。。

 永い年月を生きてきた。
 その間、人々の生の営みを眺めて来たが、自分がしたいとはついぞ思わなかった。

 こんなにも自分が溺れるとは思いもしなかった。

 普賢と交わることそれ自体が喜びで、何度繰り返しても厭くことが無い。
 そのこと自体驚きだったが、その一方で、いろいろと試してみたくなる。

 その好奇心が自分に残っていたこともまた、驚きだった。



 縛らせてくれと、最初に頼んだとき、普賢はあっさり
 「嫌だよ」
 と、却下した。
 「・・・だ、駄目か。そうよのう」

 どうしてくれようか。力ずくならもちろんたやすい。
 だが、普賢に無理強いするのは本意ではない。

 思わず叱られた子犬のようにシュンとなってしまう。

 「・・・・望ちゃん。・・・そういうのがしたいの?」

 コクンと頷きが返る。

 「僕は嫌。あれって苦しいし、自分で動けないんだもん。首に縄を回されて死にそうになったこともあるし。魂魄体だから、今更死んだりしないとは思うけど」
 「く、首???」
 「うん。そういうつもりは無かったと思うんだけど」

 普賢とは既に何度も魂魄を混じり合わせている。

 普賢が自分の記憶を見るように、自分も普賢の記憶の全てを見ることができる。

 二人が別の存在に戻ってしまうと、普賢には自分の記憶、つまり伏儀の記憶は遠い彼方の事になってしまうようだ。
 おそらく情報量が多すぎるのだろう。処理できる範囲でぼんやりと、ということになるらしい。

 対して、太公望はどうかと言えば、始祖でもある彼には、普賢の記憶を保持しておくことは容易い。
 だが、それを自ら封じていた。

 普賢の魂の有り様に安らぎ融けることは、自らに許したが、その記憶を覗くことは禁じていた。
 正確に言えば、融けているとき自分は普賢でもある。記憶も共有する。

 事前催眠の形で、その記憶の保持を自らに禁じていた。

 正直、自分を保てる自信が無かった。

 普賢自身も覚えていないという初めての相手を知りたくなかった。
 また、崑崙で寝た男たちの何人かは、おそらくまだ仙界もしくは神界にいるだろう。
 
 嫉妬に狂う自分が容易に想像できて、笑える程だった。
 それらの男たちを殺しかねない自分がいた。
 もし既に死んでいたとしても、輪廻の輪の中にあるその魂を探し出して、引き裂きかねない。

 そして、それを普賢が悲しむだろう事も容易に想像できた。

 何とも情け無い事ではあったが。

 

 従って、普賢の過去の閨の事は、太公望にとっては預かり知らぬ事、ということになる。
 こちらから話を振らねば、普賢は自分のことを話さない。

 話したくないのではなく、普賢自身が自らに対して興味が無いのではと感じたのは何時のことだったろ。
 あるいは、自分の事は既に悟りに似た境地でわかっていて、探求の対象ではないのかもしれない。
 
 他者へのいたわりと、それに比して、いっそ無関心と言えるほどの己への執着の無さが共存している。

 一道士の太公望であった時もそうだったが、普賢自身のことに話が及ぶと、驚くような内容をあっさり言われて、こちらが言葉を失うことが多々ある。

 今回もそうだった。

「首を縛ったのか?」
 「だから、違うってば。結果的に首になっちゃっただけ。首が絞まって意識を失う時が気持ちいいって言う人もいたけど、僕はよくわからなかったしね。首が絞まると苦しいから、そっちが気になっちゃって、なんだか集中できないし」

「うーむ。失神の瞬間の快楽をお主が覚えなかったのは幸いであった。あれはいつか失敗して死に至る。お主が無事で良かった」
「だから縛られるのは嫌」
「わしは、わしは、首は縛らぬ!!手だけじゃ。お主の手をこう縛ってしまいたい」

 「望ちゃん・・・・・・僕の手が触るの嫌なの?」
 「違う!! むしろ反対じゃ。大好きでたまらん。お主の手に触られると、こうキューっとなってだな。すぐ達してしまう」

 すぐ?。望ちゃんより長くてしつこい人いないと思うんだけど。

 「これではいかんと思ってな。お主をもっと楽しませたいのに、と反省してだな、お主の手が伸びてこなければ、わしももうちっと長持ちすると思うのだ」
 「僕は今で十分気持ちいいよ」
「何を言っておるのか。さらなる高見を目指そうという気はないのか」
「ええー?」

「嫌か?」
「嫌なんだけど・・・そんなにしたいの?」
「してみたい。お主が嫌と言ったら、すぐやめるから、のう、こう、試しにやって見ぬか」

「・・・本当にすぐやめてくれる?」
「お、おお、もちろんだ。・・・ちゃんと、研究もした。お主を楽しませる自信はある」
「研究・・・って、もうそんなことばっかり・・・はぁ・・・」

 そう言いながら、普賢は、その両手を前に揃えて出した。

 「え? いいのか?」
 「したいんでしょ。いいよ。でも手だけだからね。それから、痛いのも嫌だからね」
 「大丈夫。わしの研究の成果を見よ」

 そう言うと、どこからともなく紐を取り出し、普賢の手首を縛り上げた。

 「魂魄体を縛れる紐って、あったんだ」
 「ふふーん、ちゃんと考えたぞ。どれ、痛くはないか?」
 「大丈夫。・・・・ねぇ、望ちゃん、これ太極図じゃないの」
 「ばれたか。形を少し変えて、それからこの部屋の周囲に陣もひいた。完璧であろう、わしの策は」

 「もう。それで? どうするの?」
 「こうする」

 そのまま普賢を寝台にやわらかく押し倒した。
 まとめ上げたその腕を普賢の頭上に持ち上げると、その腕に回した紐、つまり太極図が伸びて、寝台の頭側の壁に吸い付く。そうして普賢を寝台に縫い止めてしまった。

 「・・・望ちゃん」
 「嫌だったら、すぐやめるからな」

 軽く口づけてから、普賢の体を見下ろす。既に何度も交わった後で、二人とも衣服は纏っていない。

 はずだったのに、太公望だけ何故か着衣している。

 「望ちゃん、それ、ちょっと反則じゃない」
「何を言うておるか。こういうのもそそるであろう・・・・と、お主はそうでもないか」

 膝を大きく手で割られて、隠すこともできず、その中心を見つめられる。

「一度、落ち着いて眺めたいと思っておったのだ」

 楽しそうに普賢の脚をさすりながら、膝裏から持ち上げさらに大きく広げさせる。
 視線が体中を這う。

 おそらくわざとだろう。普賢とは目を合わせようとしない。
 その太公望の頭を見下ろしながら、せつなさにため息がもれた。

 いつもだったら、太公望の頭を撫でているところだ。あるいは肩に手をやってさすっているところだ。

 視線が合わなくても、そうして、太公望とのつながりを感じていられたのに。
 今は、それがない。

 気持ちを伝える術が無くてもどかしい。

 「望ちゃん・・・・」
 そのもどかしさで、体が熱くなってくる。
 息を中心に吹き付けられて、背筋が反り返る。
 「ん!・・・・」

 が、それきり、そこには触れてくれない。左足の付け根に口づけを落とすと、そこを甘噛みし始めた。

 吐息がもれる。甘い吐息が。

 快楽をやり過ごそうと、足を閉じようとするが、回り込んだ腕がそれを許してくれない。
「望ちゃん! 望ちゃんってば・・」
「ん、大丈夫だ」

 何が?

「ほれ、ここも感じるのであろう」
 立ち上がったそれから、後ろへのつながりを舌がそっと撫でていく。
 その微妙な刺激がたまらなくて、腰が浮く。
「やはりな、ここがいいのであろう」

 そう言って、狭間の柔らかい部分を今度は舌でぐいぐいと押してくる。

 「え?、ん、あ・・・」
 「やはりな。・・・いつもは、すぐ夢中になってしまうからの。ここは、きちんとしたことなかったからのう。すまなかったな」

 口では謝りながら、手は押したり触ったり軽く引っ掻いたり、どれが一番強い反応を引き出すか試すかの如く様々な感触で触れてくる。
 「ここはどうだ?」
 
 達することを許されず体の隅々まで嬲られて、ようやく挿入してもらえた時には、それだけで気をやって果ててしまうほどだった。



 それが初めての緊縛で、その後も嫌だといいながら、最後にはほだされて許してしまう普賢だった。

 その後もいろいろな縛り方を試されて、しばらく太公望が気に入っていたのは、左右の手首と足首をそれぞれ固定してしまうやり方だった。これだとどうしても膝を曲げるしか無くて、足を開いてしまう。
 手が伸びてこない上に、足での誘導もなくて、存分に可愛がれてよい、と言うのだった。

 後ろ手にして手首を縛ってしまったときは、寝台に押し倒してすぐ痛いと言われ、解こうとしたが、思い直して騎乗位にしてしまった。自分の上に跨った普賢の中心を可愛がってやって、その後、放置すると、もどかしげに動き始めた。
 それを見上げながら、時折、下から突き上げてやると、普賢の背が反り返る。
 手を後ろに縛られて不安定な姿勢なのが、思いがけない動きとなって、双方に快楽をもたらした。

 すぐに達しては残念なので、タイミングを外したり、普賢の腰を下から押さえたりして、解放させてやらなかった。
 最後は、じれた普賢が、太公望に口づけてきて、普賢の方から舌を差し入れるという珍しいご褒美のおまけ付きだった。

 口づけの後、
「望ちゃん。お願い」
太公望の唇の端を軽く咬みながら囁かれるのに、我慢を忘れ、普賢を突き上げ、共に果てた。



 天井からつり下げるというのは、いろいろな緊縛の中で、太公望が今一番気に入っている形だ。

 つり下げた形で、十分普賢を可愛がってやる。
 それから挿入するのだが、なにせ、普賢の方が少し背が高い。
 その少し背が高い普賢をつま先立ちにして立たせているのだ。

 挿入しても、いつもより少し浅いところまでしか届かない。
 そのもどかしさがたまらないらしい。

 「だって、大きさとかそういう事じゃなくて。いつもの望ちゃんだったら、後もうちょっと来てくれるのに、って思うと、そのちょっとが足りなくて寂しい」

 終わった後、普賢にそう言われて、すまぬと謝りはしたものの、結局何度も同じ仕儀で挑む。

 その「ちょっと」のせつなさに、普賢が足を絡め、切なげに腰を揺らし、自分の名前をかすれ声で呼んで求めてくれるのがたまらない喜びを太公望にもたらすからだ。


 
 もっと、もっと、自分を求めて欲しい。
 もっと自分の名を呼ばせたい。












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本当に山無し、落ち無し、意味無しでごめんなさい